妄想小説Walk第71話

私は今、いちご狩りに向かう為、山田さんの運転する車の助手席に乗っている。

 

 

 

”いちごが大好きだからいちご狩りに行きたいけど男一人で行くのは寂しすぎるから一緒に行ってもらえないか”

 

 

 

先日の打ち合わせ終わりにそう誘われて。

ものすごく迷ったけど、あまりにも懇願されるのでご一緒させてもらうことにした。

 

 

 

 

無理に私じゃなくても、山田さんと一緒にいちご狩りに行きたい美女は周りに山ほどいらっしゃるだろうに。

それに気づいてないのかな山田さんは。

意外と鈍感なのかもしれないな。

 

 

 

私は、そんなことを思いながら山田さんの方を見る。

さっきからニコニコしながら鼻歌を歌っている山田さん。

 

いつもはスーツ姿でビシッと決めているが、今日はとてもカジュアルだ。

イケメンなのは変わりないけど、服装がカジュアルなだけで緊張感が和らいでとてもありがたい。

 

 

 

 

「ねぇまゆみさん。お願いがあるんだけど」

「何ですか?」

「そろそろ俺に敬語使うのやめない?今日とか仕事じゃないわけだしさ」

「えっ」

 

山田さんのいきなりの申し出に戸惑う私。

 

「急にどうしたんですか?」

「言ったでしょ?プライベートでも仲良くしたいって。嫌?」

「嫌じゃないですけど・・・」

 

山田さんと仲良くするといつか刺されそうな気がするのは何故だろう。

 

「じゃ決まり。ついでに涼介って呼んでくれてもいいよ」

「え?」

「俺、下の名前涼介だから」

「いや、さすがにそれは」

 

ハードル高すぎです。

 

「ま、いいや。そのうちね」

「あ・・・はい・・・」

 

山田さんは時々強引な所がある。

 

 

 

「まゆみさんは強引にしないと遠慮しちゃうから」

 

山田さんはそう言いながら笑っている。

 

「!?」

 

え、私の心の声、聞こえるんですか!?

 

まるで私の心の声を聞いたようなタイミングで言われて驚く私。

 

 

 

 

 

 

 

・・・山田さーん・・・・

 

聞こえますかー?

 

 

 

 

 

 

 

・・・思わず試してみたけれど。

聞こえるわけないか。

何やってんだ私。

 

 

あーびっくりした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして、いちご畑に到着した。

受付を済ませ、いざ、入場。

 

「わーーー!!!すげーーーー!!!」

 

見渡す限りのいちご畑を見てそう叫ぶ山田さん。

目がキラキラ輝いてる。

 

本当にいちごが大好きなんだな(笑)

 

「どれから食べようかなー♪迷うなー♪」

 

色々な種類のいちごがあるのを発見すると山田さんは嬉しそうに歌いだす。

 

めちゃくちゃテンション上がってる(笑)

こんな可愛いとこあるんだ!(笑)

すごく意外だ!

 

「じゃあ奥から順番に行こう!ほら、まゆみさん行くよ!」

 

そう言って今にも走り出しそうな山田さんの言葉に私が「あ、はい!」と返事をすると、山田さんはピタッと真顔になり、「え?」という。

 

「え?」

 

真顔過ぎてとまどう私に山田さんは

 

「敬語。やめるんでしょ?」

 

と私の目を見つめる。

 

「あ!そうだった!ごめんなさい!」

 

慌てて謝る私の言葉を聞いて山田さんは真顔のままでじっと私の目を見つめ、何かを訴えかけてくる。

 

「・・・あ、ごめん・・・」

 

私がそういうと山田さんは腰が抜けそうなほど美しい笑顔になり

 

「行こう」

 

と言って歩き出した。

・・・というか、もはや早歩きだ。

 

山田さんは結構なスピードで狙いを定めたいちごに到着すると、優しくいちごを摘んで自らの口に運ぶ。

 

「!!」

 

そして目を大きく見開いて「うっま!!」と言ったと思ったら、私に向かって

 

「まゆみさんも早く食って!うまいよ!」

 

と言いながら次のいちごに手を伸ばす。

子供みたいなその姿に私は思わず笑ってしまう。

 

「ちょっ。笑ってないで早く食えって」

「あーごめんごめん(笑)」

 

私は目の前にあったいちごを摘み、口に入れた。

 

「!!」

 

なんだこれ!

 

「超おいしい!!」

「でしょー?だから早く食えって言ったんだよ」

 

なぜかドヤ顔の山田さん。

 

「はいはいごめんごめん」

 

思わずそう言ってしまう(笑)

そんな私に山田さんは

 

「おい、バカにしてるだろ!」

 

と子供のように言い始める。

 

「してないよ(笑)」

「してなかったら二回同じこと言わねーからなー!!」

「わかったわかった!はい、あーん」

 

あまりにも子供っぽいので、試しにその辺にあるいちごを摘んで半分強制的に山田さんの口元に押し付けてみる。

すると、意外と素直にそれを受け入れ、いちごを食べると

 

「知ってるよ、うめーよ・・・」

 

と言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・やばい。

楽しいんですけど。

 

 

 

山田さん、意外と子供っぽいところがあって可愛くて。

意外とノリもよくて。

色々気づいてくれるし。

 

本当、色々意外な所がたくさんあって。

これだけ美しい顔面をお持ちだから住む世界が違うんだろうなって思ってたけど、意外と普通だ。

 

美しすぎる顔面にも少しずつ慣れてきたし。

今日は楽しめるかもしれない。

 

私は、自分の中での山田さんのイメージが少しずつ変わり始めているのを感じていた。

 

 

 

 

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