妄想小説Walk第66話

「で?何があったんだよ。」

 

仕事が終わった髙木くんと私は居酒屋に来ている。

運ばれてきたビールを一口飲んだ後、おもむろに髙木くんがそう言った。

 

「やっぱり髙木くんにはお見通しなのか・・・」

「そんなにパンパンに顔むくんでたら誰だって昨日泣いたのかなって思うよ」

 

さすがです。

 

「映画見て号泣したって思わない?八乙女くんみたいに(笑)」

「そうなの?」

「違うけど(笑)」

「だろ?左右違う靴下履いてくるなんて珍しいからさ。何かあったのかって思うよ」

 

そんな所まで気づいてくれるって、本当すごい。

 

「靴下は自分でもびっくりしたよ(笑) やっぱり一日じゃ気持ちの整理がつかないんだろうな(笑)」

「・・・やっぱり有岡と何かあった?」

「・・・うん・・・」

 

 

 

 

私は、有岡くんが女の子と手を繋いでる姿を二度も目撃してしまったこと、また山田さんにお世話になってしまった事を話した。

 

 

 

 

 

 

 

「有岡・・・何やってんだよあいつ・・・」

 

私の話を聞いた後、髙木くんは複雑な顔をしてそうつぶやく。

そして、続ける。

 

「え、その子、彼女なの?」

 

 

 

チクン

 

胸が痛む。

 

 

 

「・・・わかんない。でも、そうなのかも。」

「手を繋いでたから?」

「それもあるけど・・・」

 

 

それよりも、引っかかってる事。

それが。

 

 

「彼女、大貴って呼んでた。有岡くんの事」

 

有岡くんの事を「大貴」って呼ぶって、相当親しい感じがする。

 

「だから・・・彼女なんじゃないかと思う・・・」

 

 

 

チクン

 

自分で言葉にしたくせに、傷んでしまう私の胸。

 

 

 

 

 

・・・辛い・・・

・・・もっと強くなりたい・・・

 

 

 

 

 

 

「お前も手繋いでたよな?」

「・・・うん」

「あいつ・・・」

 

有岡くんの行動がよくわからないのか、髙木くんはそう言うと、黙り込んでしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・彼女にね、名前を呼ばれてさ。私に背を向けたの。有岡くん。それが一番つらかったな・・・」

 

 

あの時の光景がよみがえる。

また、涙が出そうになるけど、そこはグッとこらえた。

今、泣いたら髙木くんに迷惑をかけてしまう。

 

 

 

「辛かったら泣けばいいよ」

 

そんな私を見て髙木くんが優しくそう言う。

 

「・・・そんな所までお見通しなんだね」

「うん。だから我慢する必要ないんだよ」

「・・・そっか・・・」

 

 

髙木くんの優しさはとてもありがたい。

・・・でも、私は・・・

 

「でも・・・強くなりたい。私。有岡くんの全てを受け入れられるような、器の大きい人になりたい」

 

私の言葉を聞いて髙木くんは少し考える素振りをした後

 

「・・・そ?まあ無理すんなよ」

 

と言ってくれた。

 

「ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

プルルルル

プルルルル

 

 

 

 

そんな時。

電話の着信音が。

 

「・・・山田さんだ」

 

何だろう?

仕事の話かもしれない。

 

「出ていいよ」

 

髙木くんが気を効かせてそう言ってくれる。

 

「ありがとう」

 

私はそれにお礼を述べた後、「もしもし?」と電話に出た。

 

「あ、山田です」

「お疲れ様です。何かありましたか?」

「ううん、まゆみさんの事が気になって」

 

仕事の事で何かあったのかと思ってちょっと不安だった私に向けて山田さんが放った言葉は私の予想外のものだった。

 

「え?」

「もう大丈夫?」

「あ・・・はい!もう大丈夫です!ご心配をおかけしてすみません」

 

心配して電話してくださったんだ・・・。

本当、申し訳ない・・・。

 

「・・・そっか。じゃあまた連絡するよ。」

「あ・・・はい・・・」

「じゃあね」

「失礼します・・・」

 

それだけ話すと電話は切れた。

 

 

 

 

「透けてるイケメン、なんだって?」

 

電話が切れたことに気づいて髙木くんがそう聞いてくる。

 

「もう大丈夫かって」

「心配してくれたんだ?」

「・・・多分」

「優しい人だな」

「うん。そう思う」

 

本当、優しい人。

 

「有岡じゃなくて透けてるイケメンにしとく?」

 

髙木くんがそんな冗談を言いだすぐらい(笑)

 

「えーそれは山田さんにご迷惑でしょ(笑)」

「別にいいんじゃね?」

「てか、私が好きでい続けると有岡くんに迷惑かかっちゃうのかなぁ・・・困ったぞ・・・」

「・・・まぁどうでもいいけどさ」

 

迷走し始めた私を髙木くんが止めてくれる。

そして。

 

「お前が幸せになることを考えろよ?」

 

急に真面目な表情でそう言った。

 

「え・・・」

「相手は誰でもいいよ。お前が幸せなら」

「・・・ありがとう・・・」

 

山田さんも優しいけど、髙木くんが一番優しい気がする。

 

「今日は飲むぞ!」

 

髙木くんがにっこり笑って言う。

 

「うん!」

 

私はそれに同意すると、自分のジョッキを空にした。

 

 

 

 

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