妄想小説Walk第63話

「あれ・・・?」

 

あれから2時間ほどカラオケを楽しんで店を出た所で山田さんがそう言って急に立ち止まった。

 

「?」

 

私も立ち止まり、山田さんの視線の先を見る。

そこには有岡くんが女性と手を繋いで立ち止まっている姿があった。

 

「!!」

 

そんな姿を発見してしまったと同時に、有岡くんと目が合った。

 

「まゆみさん・・・」

「有岡くん・・・」

 

私はそれ以上何も言う事が出来ずに目をそらしてしまった。

正直、見たくなかった。

 

 

 

 

「行こう」

 

山田さんはそう言うと、私の手をつかみ歩き出す。

 

「えっ山田さん!?ちょっちょっと!?」

 

思わず有岡くんを見る。

 

一瞬目が合う。

 

 

「大貴、行こ」

 

しかし、一緒にいる女の子に促された有岡くんは私から目をそらして背を向けて歩き出した。

 

 

その後ろ姿を見ていると何とも言えない気持ちになり、私は有岡くんから目をそらして山田さんについて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく歩いた先の公園で山田さんは立ち止まり、振り返った。

 

「少し座りましょうか」

「はい・・・」

「ちょっと待ってて」

 

山田さんはそう言い残すと小走りでどこかに行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・。

 

 

 

 

 

 

何か。

 

 

 

目の前に突き付けられるとやっぱり

 

 

 

平静ではいられないんだな・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

女の子、可愛い子だったな・・・。

女の子っぽい、可愛い子。

私とは正反対な感じの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい」

 

そんなことを考えていたら、いつの間にか山田さんが目の前に立っていて、驚くほどイケメンな素敵な笑顔で缶コーヒーを差し出してくれている。

 

「あ、ありがとうございます」

 

私はそれを受け取った。

それを見て山田さんは私の隣に腰掛け、コーヒーを一口飲んだ後、おもむろに話し出した。

 

「さっきの人って、まゆみさんの会社の人だよね?まゆみさんが倒れた日に慌てて走って出てきた・・・」

「・・・え・・・?」

 

 

 

 

 

有岡くん、あの日走って出てきてくれてたんだ・・・・

 

 

 

 

 

 

 

気がつくと私の両目は涙であふれていた。

止めようと思っても止められない。

 

「あ、何でもないんです。気にしないでください」

 

山田さんの視線を感じて私は慌ててそう言い、涙を拭く。

だけど、あふれてくる涙は全然止まろうとしてくれない。

 

 

 

「泣いていいですよ」

 

そんな私に山田さんはものすごく優しい声でそういう。

 

「え・・・?」

「実は今日、まゆみさんを見かけた時に、何か泣きたそうな顔してるように見えて。もしかして泣きたいんじゃないかなって思ってカラオケに誘ったんです。泣いてる姿、誰にも見られたくないかなって」

「・・・!」

「無理に強くいる必要はないです。泣きたいときは泣けばいい。まゆみさんに笑顔が戻るまで俺、待ってますから」

「・・・」

 

ああ・・・ダメだ・・・

何でそんなに優しいんだ・・・

 

 

気づいたら私は声をあげて泣いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「山田さん、本当にすみません・・・ありがとうございます」

 

ひとしきり泣いて、何とかしゃべれるような状態になってから私は山田さんにお詫びとお礼の言葉を告げた。

 

「いえ。大丈夫ですか?」

 

そう問いかけてくれる山田さんの顔は本当に優しい。

 

「はい。多分」

「多分かよ!」

「あははは」

 

山田さんのツッコミに思わず笑ってしまう。

 

何だろう。

本当、優しくて素敵なイケメンだ。山田さんは。

 

 

 

 

 

 

「私はまだまだだなぁ・・・」

「?」

「全てを包み込めるような、器の大きい女性になりたいんです私。」

 

有岡くんの全てを受け入れられるような、そんな強い女性に。

 

「素敵ですね」

「でも、まだまだです」

 

思わず、大きなため息をついてしまう。

さっきの光景を思い出して。

 

「目の前で見ちゃうとやっぱり動揺しちゃいます。幸せでいてくれれば、ずっと笑っててくれればそれでいいって思ってたのに。本当、ダメですね、私。」

「・・・すごく・・・好きなんですね。彼の事。」

「・・・はい」

 

いつもなら恥ずかしくて否定したくなるんだけど、山田さんにだと何だか素直に肯定出来た。

 

「俺だったらそんな思いさせないけどな」

「え・・・」

「彼女にそんな思い。俺だったらさせないです」

「あ、いや、私が勝手に好きなだけなんです。好きだけど、告白も出来ない、ダメな女なんです」

 

思いがけない山田さんの言葉に慌てて否定する私。

 

有岡くんが悪い訳じゃない。

悪いのは勝手に好きになった私。

 

「・・・あの日、2人は恋人みたいに見えたけどな」

「・・・え・・・」

「なのに他の子と手を繋いでるなんておかしいよ!」

「いや、きっと何か事情があるんですよ、きっと」

 

何だか有岡くんが一方的に攻められているように感じてしまって、私は思わず訳の分からないかばい方をしてしまう。

 

「どんな事情?彼は誰とでも手を繋いで歩くような人なの?まゆみさんはそんなやつが好きなの?」

「・・・・」

 

畳みかけるように色々言われ、思わず黙り込んでしまう。

 

「・・・ごめん」

「いえ、私こそ、何かすみません・・・」

 

元はと言えば、私が泣いてしまったのが悪い。

 

「本当、事情ってなんなんでしょうね(笑) 何言ってんだろう私(笑) 本当、すみません」

「・・・まゆみさんものわかりよすぎ」

 

思わず謝ってしまった私に山田さんはため息交じりにそう言う。

そして、続ける。

 

「もっとわがままでもいいと思う。彼の事責めてもいいと思う。彼に本音でぶつかればいいのに」

「それは・・・怖いです」

「どうして?」

「嫌われたくないんです。どうしても。」

 

好きだから・・・

嫌われたくない。

 

私が有岡くんを責めてしまったら、きっと嫌われる。

私みたいな人間が有岡くんの事を責めるなんて出来ない。

 

「彼を自分のものにしたくないの?」

「そんな。私なんかが。おこがましいです」

「じゃ何でさっき泣いたの?人のものになったって思ったからじゃないの?」

「・・・」

 

 

 

・・・そうなんだろうか・・・。

自分の感情の説明がいまいちつかないけれど・・・

もしかしたらそうなのかもしれない。

 

「・・・わからないです。そうなのかもしれないけど・・・」

「けど?」

「私の気持ちより有岡くんの気持ちが大事というか・・・。有岡くんが笑顔でいてくれる事の方が大事なんです。私の気持ちなんて、時間が解決してくれますから」

「・・・」

「有岡くんはいつだって思わせぶりで。もしかしたら振り回されてるのかもしれないけど、やっぱり好きで好きでたまらなくて、どうしようもなく恋い焦がれてしまうんです。だから、惚れた私の負けなんです」

 

・・・って。

やだ。私何を言ってるんだろう恥ずかしい!

 

「あのっすみません変なお話してしまって!忘れてください!」

「ううん。忘れない。」

「えっ」

「俺、そんなまゆみさん好きだな」

「へ!?」

「本当に彼の事が好きなんですね。うらやましいな」

 

急に好きとか言われて驚いている私に山田さんは甘い声と優しい笑顔でそういう。

 

「あ・・・ありがとうございます・・・」

 

どう返事していいかわからず、何となくお礼を言った私を見て山田さんは声を出して笑うと

 

「家まで送ります」

 

と言って立ち上がった。

 

「あ、大丈夫です、1人で帰れます!」

 

これ以上ご迷惑をかけるわけにはいかない。

 

「そんないかにも泣きました!って顔してたらみんなびっくりしちゃうよ。」

「え。そんなにひどい顔してますか」

「してる(笑)」

 

・・・なんてこった・・・

 

「どうせ俺に迷惑かけるわけにいかないって思ってるんでしょ?」

「えっ」

「俺が送りたいだけだから迷惑じゃないし。おとなしく送らせろって」

 

は。

なんて素敵なイケメンなの山田さん。

か、カッコよすぎる・・・・

 

「じゃあ・・・お言葉に甘えて。ありがとうございます・・・」

 

そう言った私の言葉に山田さんは満足げに微笑むと歩き出す。

私はそんな山田さんの後ろについて歩き出した。

 

 

 

 

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