妄想小説Walk第56話

翌日。

 

私は今、山田さんに電話をしている。

 

「本当に!?よかったーーーーー!!!!!」

 

取引をさせて頂けることになりました、とお伝えした時の山田さんの反応は心からホッとしている様子で、何だかとても可愛らしかった。

 

「まゆみさん、今から伺ってもいいですか?すぐ契約書をお持ちします」

 

え!?

 

「今からですか!?・・・えっと・・・11時頃には出掛ける予定なのでそれまででよろしければ・・・でもあわただしいですよね?」

「大丈夫です!すぐ行きます!失礼します!」

 

山田さんのそんな声を最後に電話は切れた。

 

おっと。

急に忙しいぞ。

 

 

「八乙女くん!」

 

私は慌てて八乙女くんを呼ぶ。

今日一緒に出掛ける予定なのだ。

 

「なに?」

「ごめん今から山田さんがいらっしゃるのよ」

「透けてるイケメン?何しに?」

「契約だって」

「そうなんだ」

「出掛けるの、そのあとになるけどいい?11時までには終わると思うんだけど・・・」

 

もしかしたら八乙女くんを待たせてしまうかもしれないので一応言っとかないとね。

 

「うん、いいよ。じゃあ俺が資料見直しとくね」

「ありがとう!助かる!」

 

そうだ、資料にも目を通しておかないといけなかったんだった。

ありがとう八乙女くん!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから30分後に山田さんはやってきた。

 

 

 

「まゆみさん、お忙しいのに急かしてしまってすみません」

 

会議室にお通しした途端、頭を下げそう言う山田さん。

そして、話を続ける。

 

「何かすっげー嬉しくて!実は俺一人の力で契約が取れたの、これが初めてなんです!だから1秒でも早くまゆみさんに会ってお礼が言いたくて!」

「そんな、お礼だなんて」

「いや、本当、まゆみさんのおかげです!ありがとうございます!」

「いえいえ、私こそこんないい条件で取引させて頂けるのは山田さんのおかげなので・・・こちらこそありがとうございます」

 

山田さんのキラキラした笑顔と勢いに圧倒されつつも私もお礼を述べる。

 

何か、ものすごく喜んでくださってるみたいで本当よかった。

どうやらお役に立てているみたいだ。

 

 

 

「お時間もないみたいなので早速ですが」

 

山田さんはカバンの中から割と分厚めの契約書を取り出して私に見せる。

 

え、分厚い。

今これにすべて目を通すのはちょっと厳しいかも。

 

「あの・・・」

「ですよね。分厚いですよね」

 

私の言いたいことを察してくださったのか、そういう山田さん。

私は笑ってごまかすしか出来ない。

 

「うちの会社、何故か本当に細かい事まですべて契約書に記載しちゃうんですよね」

 

そんな私に山田さんは笑顔でそう言う。

 

そうなんだ。

さすが大手。

 

「お時間もないですし、重要なところだけ僕が説明します。それでご納得いただければ署名捺印をお願いします」

「わかりました」

 

そこから、山田さんがピックアップした重要な部分のみ契約書を見ながら口頭で説明を受けた。

特に問題はなさそうだ。

 

「説明は以上になります。何かご質問はありますか?」

「いえ、大丈夫です」

「ではこちらに署名捺印をお願いします」

「はい」

 

私は山田さんの指し示す場所に署名捺印をする。

すると山田さんは心底ほっとしたのかものすごく笑顔になり

 

「あーよかったー♪」

 

という。

そして

 

「まゆみさんと初めて会った時から一緒に仕事したらいい仕事が出来そうだなって思ってたんです。本当、ありがとうございます!」

 

と言って握手を求めてきた。

私はそれにそっと手を差し出し応じる。

 

「いい仕事しましょうね!」

 

差し出した私の手を両手でギュッと握って山田さんはそういうと、本当にキラキラした笑顔で私の事をまっすぐに見つめてくれた。

 

 

 

何か、熱いな。

すごく素敵だ。

 

よくわからないけれど、私に出来る事ならさせて頂きたくなる人だ。山田さんって。

 

 

 

 

 

 

 

「時間がある時でいいので契約書に目を通しておいてくださいね」

 

去り際、さわやかに山田さんはそういう。

 

「わかりました」

 

私も笑顔で答える。

 

「では、失礼します」

 

きっちりと頭を下げて去っていく山田さん。

その後姿を見送っていると。

 

「相変わらず透けてんなー」

 

どこかから現れて、同じように山田さんの後姿を見送りながら八乙女くんがいう。

 

「うん、しかもちゃんとしてる」

 

それにうなずく私。

そんな私の手元の契約書を見て八乙女くんは

 

「ぶあつ!!!」

 

と驚いている。

 

「何か、相当細かい所まで全て書くとこうなるらしい」

「そうなんだ。読むの大変だね」

「・・・うん」

 

そうなんだよね。

早く目を通さなきゃだけど、とりあえず今日は無理だな・・・

 

「頑張ってね」

「ありがとう。もう出る?」

 

今日は八乙女くんと㈱帝王に行くことになっている。

 

「うん、出れる?」

「うん、鞄と資料取ってくるね」

 

私はそういうと自分のデスクに小走りで向かった。

 

 

 

 

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