妄想小説Walk第51話

 

電話の音で目が覚めた。

 

 

…誰だろう・・・?

 

 

寝ぼけ眼でスマホの画面を見て驚いた。

 

有岡くんだった。

私は慌てて電話に出る。

 

「も、もしもし・・・?」

「あ、ごめん起こしちゃった?」

少しだけ申し訳なさそうに言う有岡くん。

「うん、大丈夫。どした?」

そんな有岡くんの声を聞いて私は一気に仕事モードへと切り替える。

もしかして、仕事でトラブルがあったのかもしれないと思ったからだ。

しかし、次に発せられた有岡くんの言葉に私は驚くことになる。

 

「具合どう?少しは良くなった?」

 

え!?

・・・心配してくれてたの・・・?

 

私の仕事モードは早くも崩れ去る(笑)

 

だって。

気にしてくれてたんだとしたら、やっぱり嬉しすぎるから!

 

「うん!だいぶいいよ。ありがとう!」

私はなるべく冷静を装ってそう言う。

 

・・・ちゃんと装えてるのかは謎だけど。

 

「ご飯は?食べた?」

「あーまだだよ」

家に帰ってからそのままずっと寝てたから、そう言えば何も食べてない。

そんな私に有岡くんは明るく

「じゃ今から行くね!」

という。

 

「え!?」

「今、まゆみさんちのマンションの下にいるから」

「えーーーーーー!?」

「今、エレベーターに乗ったよ」

 

は!?

今!?

 

「ちょっ!待って待って!私、朝バイバイした時と同じ状態だよ!?いや、それよりもひどいわ。寝起きで色々ぐちゃぐちゃだし!有岡くんに会える状態じゃない・・・・」

「あははは!」

 

電話口から有岡くんの笑い声が聞こえる。

必死な私がそんなに面白いんだろうか。

 

・・・この子、時々ドSになるんだよな・・・

私を困らせて楽しんでるに違いない・・・

 

途方に暮れる私に有岡くんは

「大丈夫だよ(笑) 気にしないから」

と笑ってる。

 

・・・いや、そっちは気にしなくてもこっちは気にするって・・・

 

 

 

ピンポーン

 

そうこうしてる間に玄関のインターホンが鳴る。

 

「まゆみさーん あけてー」

 

電話からは有岡くんの声。

 

「もーーーーーーー・・・・」

 

しょうがないので私は覚悟を決めて玄関のドアを開けた。

 

 

「本当だ(笑) バイバイした時と同じだ(笑)」

有岡くんは私の姿を見てそういうと、その笑顔のまま顔を近づけてくる。

「え!?」

驚いた私は思わずのけぞりそうになったのだが、有岡くんが片手で私の頭をがしっと鷲掴みにしてそれを阻止する。

そして。

「顔色よくなったね!よかった!」

笑顔でそういうと、有岡くんは私の頭を片手でぐしゃぐしゃにした。

 

なっ!?

なーーーーーーーーーーーー!?

 

「あ、これ。色々適当に買ってきたから食べて」

混乱している私をよそに有岡くんは笑顔のままでそういうと、手に持っていたスーパーの袋を私に渡す。

「えっ あ、ありがとう・・・」

私はそれを受け取る。

 

「明日仕事来れそう?」

「う、うん、多分大丈夫」

「迎えに来ようか?」

「いやいや、大丈夫だよ!」

 

しまった・・・・

あまりにも予想外の提案だったから思わず秒速で断ってしまった・・・

何やってんだ私・・・

朝から一緒にいられるのに・・・

 

いや。でも有岡くん朝が弱いんだから、早起きさせるのはかわいそうだもんね。

断って正解だ。うん。

 

「そう?あ、でも辛かったら無理せず休むんだぞ」

私の葛藤には気づかず、そういう有岡くん。

 

何かやっぱりお兄ちゃんみたいだ・・・

 

「・・・うん」

「じゃあまた明日」

「あ!待って!」

帰ろうとする有岡くんを慌てて引き留める私。

 

「ん?」

「ありがとう」

振り返って私を見る有岡くんに私がそういうと

「いいって事よ!」

有岡くんは笑顔でそう言い、鼻の下を人差し指でこすった。

 

ちょっと。

何それ。

 

とにかく、ひとつはっきりしてるのは

やっぱり私は有岡くんが大好きだって言う事だ。

 

 

そんなことを思いながら私は有岡くんの後姿を見送った。

 

 

 

 

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