妄想小説Walk第50話
あ・・・やばい。
何か気持ち悪い・・・
電車から降りた私は気分が悪くなって柱の陰に座り込んだ。
ここなら多分邪魔にならないと思う。
多分、貧血だな・・・
ちょっと座っていよう・・・
「大丈夫ですか?」
私が体育座りをして膝に顔をうつぶせて休んでいたら誰かに声をかけられ、顔をあげるとこの世のものとは思えないぐらい美しい男性が心配そうにこちらをのぞきこんでいた。
・・・何この人・・・透けてる・・・
「・・・あの・・・具合悪いんですか?」
少しの間、見とれてしまっていた私は彼の問いかけに我に返り
「あ、大丈夫です、多分貧血なので座ってれば治ると思います。ありがとうございます」
と慌てて答える。
あ・・・ダメだ。
クラクラする・・・
慌てて答えたせいか、視界がぐらりと揺らいで男性の顔が全く見えない。
私は男性に軽く頭を下げ、自分の膝にうつぶせた。
ああ・・・何だろう
なんで急に貧血なんて・・・
早く動けるようになってーーーーーー
しばらくの間、私はその姿勢で体調が回復するのを待っていたのだが、やがて動けそうな気配がしたので顔をあげた。
とりあえず、会社に連絡しなきゃ。
私は会社に電話をかけ、遅刻する旨を上司に伝えた。
もう少し休んだら出勤しよう・・・
そう思っていたら。
「大丈夫ですか?」
先ほど声をかけてくださった美しい男性がまた目の前で心配そうにこちらをのぞきこんでいた。
「あ、さっきよりは回復しました。ありがとうございます」
「あーよかった!ご迷惑かとは思ったんですが、気になって戻ってきちゃいました。回復されててよかったです」
美しい男性はそう言うと、これまた美しい笑顔を見せる。
本当、美しい・・・
何でこんなに美しい方が私の事なんか気にしてくださるんだろう・・・
「あの・・・俺、送りましょうか?」
「え、いや、大丈夫です」
美しい男性の突然の提案に思わず食い気味でお断りする。
そんな、私のようなゴミをこんな美しい男性に送らせるなんて滅相もない!
「でもまだ顔色悪いですよ?」
「いや、まあそこは気合で何とかします」
「気合じゃどうにもならないでしょ(笑) 無理しちゃダメです。女性なんだから。」
「え・・・」
急に女性扱いされると何だか戸惑う・・・
「立てますか?」
美しい男性はそう言うと私に手を差し伸べる。
「・・・」
ここは甘えさせてもらってもいいのかも。
・・・というか、きっとこの美しい男性はそれ以外許してくれない。
私は美しい男性の手に自分の手を重ねた。
すると美しい男性は軽々と私を立たせる。
・・・のだが、やっぱり私はふらついてしまう。
「ごめんなさい、大丈夫ですか?」
そんな私の体を支え、心配そうな顔でそういう美しい男性。
「あ、大丈夫です、こちらこそごめんなさい」
私も慌てて謝る。
「歩けますか?」
「はい、何とか・・・」
「じゃあゆっくり行きましょう」
「はい・・・」
私は美しい男性に支えられながらゆっくりと歩き出した。
「あの・・・お名前をお聞きしてもいいですか?」
その後。
私たちはタクシーに乗り込んだのだが、その車内で私はそう聞いてみた。
こんなに親切にして頂いたからお礼をさせて頂かないと。
「山田です。山田涼介」
「山田さん・・・色々すみません。ありがとうございました。今度お礼をさせてください」
「いや、お礼なんて。俺が勝手に気になって送らせてもらってるんで」
山田さん・・・
何から何までイケメンだ・・・
「あの・・・これから出勤ですよね?お仕事大丈夫ですか?」
「あーーーーーーーー大丈夫です、多分」
これから仕事だという事を思い出したのか、そういう山田さん。
きっと大丈夫じゃないやつだ、これ。
「本当すみません・・・私もう大丈夫なんで!この辺で捨てて頂ければ!私の事は気にせず仕事に行ってください!」
「いや、捨てないでしょ、普通(笑) 」
私の言葉に山田さんは笑いながらそう言うと言葉を続ける。
「本当に大丈夫。きっと話せばわかってもらえるんで」
「・・・すみません・・・」
「謝らないでください。俺が勝手にやってるんで」
「すみません・・・あ!ごめんなさい!・・・ああ・・・・・」
謝るなって言われたのに・・・
しゃべればしゃべるほどドツボにはまってしまう・・・
そんな私を見て山田さんは声を出して笑うと、胸ポケットから何かを取り出し
「はい」
と私に差し出す。
「?」
「俺の名刺です」
「あ、ありがとうございます」
私は名刺を受け取り、文面を拝見する。
エースコーポレーション・・・
結構大手の会社だ。
「そんなに気になるなら今度あなたの会社に行かせてください。俺、営業なんで」
「え!?あ、はい!上司に話しておきます!・・・あ!」
私は自分の名刺を山田さんに差し出しながら
「私の名刺です」
と頭を下げた。
「まゆみさん・・・一緒に仕事が出来るといいですね」
そう言って微笑む山田さんは本当に美しくて、私は目がくらんでしまいそうだった。
ほどなくして、タクシーは私の会社に着いた。
「本当にありがとうございました。おいくらですか?」
私は山田さんに頭を下げ、運転手さんにそう聞いたのだが
「大丈夫です。俺、このまま出勤するんで」
と山田さんにさえぎられた。
「でも」
「じゃあ今度会った時に」
「あ・・・はい」
今度お会いした時まで覚えとかなきゃ。
「じゃあ、気を付けて」
「本当、ありがとうございました。失礼します」
私は山田さんに頭を下げて車を降りた。
ドアが閉まりタクシーが走り出したのを見送った瞬間、一瞬だけ意識が飛んだ・・・と思ったら誰かが私の体を支えてくれていた。
そのおかげで、私は倒れずに済んでいた。
「大丈夫?」
「え、有岡くん・・・?」
声を聞いて初めてそれが有岡くんなんだってわかったのだが、今は立っていられなかった。
「ごめん、ダメかも・・・座っていい?」
「いいよ」
「ごめんね」
「大丈夫だよ」
有岡くんは私を支えながら座れそうな所まで連れて行ってくれて私を座らせてくれた。
「ありがとう・・・」
何だろう。
やっぱり貧血なのかな。
クラクラして気持ち悪い・・・
「何でこんな状態なのに出勤してきたの?」
少し怒り気味にいう有岡くん。
「電車の中で急に気持ち悪くなっちゃって・・・」
思わず声が小さくなる私。
有岡くんが怒ってるように感じるのは気のせいなのかもしれないけれど、有岡くんを怒らせたくない。
「動けるようになったら家まで送るよ」
「え、いや、仕事が・・・」
「大丈夫!俺がやっとくから!」
「え・・・ありがとう・・・」
有岡くん、何かすごく頼もしい・・・
いつの間にこんなに頼もしくなったんだろう・・・
「あんまり心配させるなよ」
「!?」
急につぶやいた有岡くんの言葉に私は心から驚いて
「・・・はい・・・・」
と下を向くので精一杯だった。
こんな、髙木くんが言いそうなセリフを有岡くんが言うなんて!
かっこよすぎてすごくドキドキする・・・!!
というか、ドキドキと貧血の気持ち悪さで何が何やらわからなくなってきた・・・
有岡くんは何も言わずにただずっと隣に座って待ってくれている。
早く動けるようにならなくちゃ・・・
そう思うけれど、体がなかなか言う事を聞かない。
やばい。
「有岡くん、時間大丈夫?私、しばらく動けそうにないからほったらかしてもらって大丈夫だよ」
「俺は大丈夫。それにほったらかしていけるわけないだろ?俺の事は気にしなくていいから休んでなって!」
私の言葉に笑顔で言う有岡くん。
本当、優しい。
その笑顔で私、元気になれる。
「ありがとう」
「いいってことよ!あ。膝枕してやろうか?」
急にいたずらっぽい瞳で有岡くんはそう言う。
「えっ」
「うそうそ(笑) ゆっくり休んで(笑)」
嘘かよ←
ちくしょー人前じゃなかったらなー←
とはいえ。
早く回復しなくては。
私は下を向いて目をつぶる。
しばらくその状態で休んでいたら、ふっと楽になる瞬間が訪れて私は顔をあげた。
すると、有岡くんが顔を近づけてきて
「だいぶ顔色よくなってきたね。送るよ。動ける?」
と言ってくれた。
「うん、ありがとう。お待たせしました」
「ん。」
有岡くんが手を差し伸べてくれる。
私がそれに自分の手を重ねると有岡くんは優しく立たせてくれ、私の体を支えながら有岡くんの車まで連れて行ってくれる。
そして、優しく助手席に座らせてくれた。
「安全運転でいくからね!」
「うん(笑) お願いします(笑) 」
急に可愛い有岡くん(笑)
思わず笑ってしまう(笑)
「寝てていいよ」
「うん、ありがとう」
いつもは絶対寝ないけど、今日はお言葉に甘えさせてもらおう。
私は有岡くんの優しさに甘えつつ目を閉じた。
「まゆみさん、着いたよ」
有岡くんの優しい声で目を覚ますと見慣れた景色が目の前に広がっていた。
私の家の前だ。
「あ、ありがとう」
私がシートベルトを外して車を出ると、有岡くんも車を降りていた。
「心配だから部屋の前まで送らせて」
「え・・・あ、ありがとう・・・」
そういえば、有岡くんが私の部屋の前まで来るのは初めてかもしれない・・・
何だか急にドキドキしてきた。
「貧血で倒れる事ってよくあるの?」
私のドキドキをよそに有岡くんは問うてくる。
「そんなにないよ。たまーーーーにあるぐらいで」
「そっか。ならいいけど」
え。本当に心配してくれてるのかな・・・?
だとしたらすっごい嬉しいんだけど・・・!
そうこうしてる間に私の部屋の前に着いた。
いつもは遠く感じるこの距離も何だか近く感じる。
「有岡くん、本当ありがとう。今度ご飯おごらせてね」
「うん。元気になったら飯食いに行こう!」
私の言葉にそう言って素直に笑ってくれるから好きだ。
「ゆっくり休んでね。無理しちゃダメだよ!おやすみ!」
有岡くんは笑顔でそういうとさわやかに去っていった。
・・・・うん。好き。
大好き。
本当にありがとう。
私は有岡くんへの気持ちを再認識しながらベットにもぐりこんだ。