妄想小説Walk第36話
「最初どう思った？」
洋食屋さんに着いて注文した途端の有岡くんからの質問がこれだった。
「最初っていつ？」
「俺がいのちゃんと付き合ってるって言った時」
私がフラれて途方にくれた瞬間の事ですね。
思い出すと今でも心臓が痛い。
本当に嘘だったのかどうか、実は今でもわからない。
「そりゃびっくりしたよね」
「そうだよねー(笑) びっくりするよねー(笑) 」
私の言葉に笑いながらそういう伊野尾さん。
笑い事じゃないですけどね(笑)
「はい(笑) 聞き間違いかと思ってもう一回聞いちゃった(笑) 」
「聞いてたね！2回！(笑) 」
だから有岡くん、笑い事じゃないって(笑)
「聞くよ！一瞬、何言ってるかわからなかった(笑) 」
「で？大ちゃんの言う事をすぐ信じたの？」
「はい」
「よく信じたね(笑) 」
「おい！俺の演技がうまかったんだよね？」
笑いながら言う伊野尾さんに対してツッコんだ後、有岡くんは私に向かってそういう。
・・・。
そうなのかもしれないけど、悔しいからそれは認めたくない。
「んーーー冷静になればおかしいってわかると思うんだけどな。冷静じゃなかったんだろうなぁ・・・」
「いやそこは俺の演技がうまいでいいじゃん」
「それはない！」
「おい！」
食い気味で否定する私にツッコむ有岡くん。
まんまと騙されて悔しいから、絶対演技うまいなんていってあげないんだから。
意地でも！！←
「ねぇ。羽はどうだった？あれ必要？」
伊野尾さんが言う。
「羽は意味がわからなかったです」
「だよね(笑) 他の演出で使う予定なんだけど、今日あれを見た大ちゃんがどうしても使いたいって言うからさ(笑) 」
「何だよ！いのちゃんもおもしれーって言ってくれたじゃん！」
有岡くんがやりたかっただけなのかあの羽(笑)
確かに面白いのかもしれないけど、なかなかにトラウマになったよ。
羽が舞う中での「サプラーイズ！」(笑)
「インパクトはあったと思う！」
めげない有岡くん。
彼のメンタルは強い。
「インパクトはあったけど、トラウマになった(笑) 」
しばらく羽を見たら思い出しちゃう気がする。
あまり羽を見る機会はないとは思うけど(笑)
「そっか、トラウマかぁ・・・ちょっと思ってたのと違うなー」
しみじみという有岡くん。
いったいどう思っていたんだろう・・・
思った通りの反応をしてあげたかったけど、きっと私には無理だったんだろうな・・・
なんかちょっと悲しい・・・
「え・・・？慧ちゃん？」
そんなことを考えていたら、1人の女性が伊野尾さんに話しかけていた。
お知り合いなのかな？
「あやか・・・？お前何でここにいんだよ」
一瞬、驚いた顔をした後すぐに険しい顔でそういう伊野尾さん。
・・・何か違和感・・・
「ちょっと友達の付き添いでね」
冷たい態度の伊野尾さんに対してすごく嬉しそうに話している女性・・・あやかさん。
でも。
「ねえ、そんな言い方しなくてもよくない？せっかく会えたのに」
と、ごもっともな反論をする。
そりゃそうだ。
「うるせーな早く戻れよ」
そんなあやかさんに更に冷たく伊野尾さんは言う。
なんでそんなに冷たいんだろう？
「ひどいなーもう。すみません、お邪魔しました」
あやかさんはそう言うと、私と有岡くんに笑顔で頭を下げる。
そして、自分の席に戻っていった。
・・・よく出来たお嬢さんじゃないの。
私はそう思いながら伊野尾さんを見ると、伊野尾さんは
「誰だよあの男たち・・・」
あやかさんのお連れの男性2人を見てぼそっとそう呟いていた。
「いのちゃん、誰？」
「幼なじみ」
有岡くんの言葉にぶっきらぼうに言う伊野尾さん。
「へー！可愛らしい方ですね！」
「どこがだよ！年上だからってお姉さんぶってさーむかつくんだよなー」
私の言葉に対してはもっとぶっきらぼうだ。
・・・珍しい。
っていうか、こんな伊野尾さん初めて見た。
女性を見たらすぐデートに誘うイメージだけど。
女性に対してそんなきつい言い方してる所なんて見たことない。
誰に対してもすごく優しい人なのに。
あやかさんに対してだけなのかな・・・？
だとしたらもしかして・・・
「えーそんな感じしなかったけどな・・・」
そう言いながらあやかさんのいる席を見る有岡くん。
私もつられてその席を見る。
あやかさんと多分お友達の女性が1人。
それに男性が2人。
2人ともすごいイケメンだな・・・
・・・ん？
「薮さん！？」
「知念！？」
私があやかさんの席に帝王感丸出しで座っていた薮さんを発見して驚いたのと同時に有岡くんも誰かを発見して驚いていて。
私と有岡くんはそれにも驚いて「え！？」と顔を見合わせた。
「え？2人とも知り合いなの？」
それに伊野尾さんも驚いている。
「うん。あのちっちゃい子、俺の高校の後輩！」
「そうなんだ！あの帝王感丸出しの方は取引先の方なんです」
「へーそうなんだ・・・」
有岡くんと私の言葉にうなずいているけれど、薮さんと知念さんの方を見つめながら心ここにあらずと言った様子の伊野尾さん。
そんな伊野尾さんを見て思わず顔を見合わせる有岡くんと私。
・・・そうだよね。
伊野尾さん、きっと気になってる。
おそらく有岡くんと私は何も言わなくてもお互いの言いたいことが通じ合ったんだと思う。
その証拠に、私たちは目を合わせて軽くうなずくと2人同時に立ち上がっていた。
「俺、声かけてくる」
「私もご挨拶しなきゃ」
有岡くんと私はそういうとあやかさんの席へと向かったのだった。
