「White Love」

今日はHey!Say!JUMPのコンサート。

私は、席に座った時からソワソワしていた。

友達が当ててくれたその席はアリーナ席、しかもメインステージからほど近い場所だったのだ。

ステージまでの距離は少し離れてはいたが、その分ファンサをもらうには程よい距離に感じた。

これはうまくいけば大ちゃんにファンサしてもらえるかもしれない・・・!

そう思っていたが。

その淡い期待はすぐに打ち崩されることになる。

コンサートが始まると、私の前の席の方とその前の席の方がいわゆる”マナーの悪いファン”だと判明した。

”マナーの悪いファン”のタイプは色々あるが、今回は「うちわを2枚持ち、それを思い切り上にあげてしまうタイプの方々だった。

うちわは規定サイズ以内、胸の前に出し、それより上にあげてはいけない、と公式で決まっている。

「見てほしい!」という気持ちはわかるけど、後ろの席になってしまうと悲劇でしかない。

スタンド席だと前の人が高々と上げた2枚のうちわに隠されてJUMPの姿が一切見えなくなり、怒りを覚えるところだが、ここはアリーナ席。

ステージの位置がアリーナ席よりも高いため、JUMPの姿はかろうじて見えるのが救いだった。

JUMPはマナーの悪いファンがいると、そのブロック一帯を完全に無視したり、背を向けたりする。

それを”干される”というのだが、私は過去にそれに巻き込まれた経験がある。

その時はJUMP全員が露骨に”干して”いたので、よっぽど悪いことをしてしまった方が前列にいらっしゃるんだろうな・・・とは思ったが、すごく悲しい思いをした。

私は、”マナーの悪いファンを干す”JUMPはとても素晴らしいと思っている。

ぜひ続けて頂きたいとも思う。

思ってはいるが!

うっかり前列にマナーの悪いファンがいらっしゃると「私はHey!Say!JUMPのファンでいちゃいけないのかな・・・」と思い詰めてしまうほど悲しい思いをするのだ。

JUMPが乗ったフロートが私たちのブロックに差し掛かった途端、メンバー全員がくるりと背を向ける。

JUMPの名前を呼ぶことすら許されない。

いくら叫んでも、JUMPが振り返ってくれることはないのだ。

あまりにも全員が露骨に私たちのブロックを避けるので

「きっとイヤモニで”あのブロックに危険人物がいるぞ!”って言われてるんだろうね・・・」

と友達と話すことで自分を納得させていた。

そのブロックにはうちわ2枚を高々と上げる方もいらっしゃったけど、きっともっと罪深いことをしてしまった方がいらっしゃったのであろう。

その日の私は運が悪かったのだ。

だが、私たちの周りに座っていた女の子たちはみんないい子たちで、とてもマナーのいい子たちばかりだったので、すごく切ない出来事だった。

切なかったけれど、JUMPにはそのまま”マナーの悪いファンを干して”いただきたい、という気持ちは変わらない。

私はその時の事を思い出していた。

大ちゃんが近くを通るたびに、大音量の声援と共に高々と上げられる1人2枚のうちわx2。

せめて私のうちわでJUMPを隠さないようにしなくては。

私自身のうちわでJUMPを隠してしまい、後ろの方に切ない想いをさせることだけはしたくない。

あの時の私たちのように、切ない想いをする人は1人でも少ない方がいい。

私は自分で作った”大ちゃんにファンサをお願いするうちわ”をピタッと胸の位置に固定して大ちゃんを見つめる。

大ちゃんの視線が何度か私のうちわを見てくれているような気はしたが、大ちゃんがファンサをしてくれる気配は全くなかった。

・・・そうだよね。

前にマナーの悪いファンがいるもんね・・・

そもそもうちわ見てくれてるかどうかもわかんないしね・・・

今回はファンサしてもらうのは無理だな・・・

私はファンサをもらうことは諦め、肉眼で大ちゃんの表情が見られるような神席を当ててくれた友達に感謝しつつ、コンサートを楽しむことにした。

コンサート終盤。

JUMPが「White Love」を歌い始めた。

大ちゃんは私の席からは少しだけ遠くで歌っている。

私は、より大ちゃんの表情を楽しむために双眼鏡を覗いて大ちゃんを見つめていた。

今回のコンサートは、私にとって最後のコンサートになるかもしれない。

私はそう思って参戦していた。

コンサート前の大ちゃんの熱愛報道が私には耐えられなかったからだ。

”本当のファンは自担の幸せを喜ぶものだ”

そんな言葉も私を苦しめた。

私は今回の熱愛報道のおかげで、自分が大ちゃんに対して抱いている感情は間違いなく”恋心”で、お相手がどんなに素晴らしい方だったとしても受け入れることなんて出来ないのだと思い知った。

大ちゃんのことは大好きだけど、大ちゃんの全てを受け入れられない私は、有岡担にふさわしくないのかもしれない。

今の私は、胸を張って有岡担だとは言えなかった。

「White Love」がサビにさしかかる。

大ちゃんはかっこいい。

好きだ。

でも。

私はこのままファンでいていいのだろうか。

そんなことを思いながら、私は歌っている大ちゃんの顔面を双眼鏡で見ていた。

たったひとつだけ 願いが叶うのならば
君が欲しいよ

「えっ・・・」

私は動揺していた。

”君が欲しいよ”の”君”に合わせて、大ちゃんの視線が私の目を捉えていたからだ。

大ちゃんはそのまま私の目を捉えながら歌い続ける。

えっ うそ。そんな。えっ。うそ。うそ。

気のせいなのか、気のせいではないのか。

そんな判断をする余裕なんてない。

私にとっては、間違いなく大ちゃんの視線が私の目を捉えているのだ。

いつまでも合い続ける視線に動揺して、双眼鏡を持つ手がブルブルと震え始める私。

それに気付いたのかどうかはわからないが、大ちゃんの表情がガラリと変わった。

あ。調子に乗った。

我ながら表現が酷すぎるが、その時はそう思った。

そのぐらい、明らかに、その時の大ちゃんは、私に向かって、私のためだけに、極上の愛をこめて歌ってくれていた。

完全に私を堕としにかかっている。

最初で最後の恋を始めようよ Lady

とても。とても長い時間に感じた。

手の震えがどんどんどんどん加速していき、口がパクパクと「うそ。うそ!うそ!!」としか言えなくなっていく。

幸せすぎるのと信じられない気持ちとが入り混じり気を失いそうになるのを必死でこらえ、大ちゃんを見つめ返すことしか出来ない。

たった一人だけ・・・

大ちゃんの視線が私から外された。

やっと、息が出来たように感じた。

今の。今のは。目が合ってた・・・よね。

あの瞬間だけは、私のためだけにWhite Loveを歌ってくれた。

極上の愛をこめて。

・・・やばい。嘘だ。そんなこと、あっていいんだろうか。

いや。気のせいかもしれないし。

どうしよう。

ドキドキが止まらない。

I Love You I Love You これが運命と言うのさ

「えっ」

”運命”の時だけ目が合った。

私が有岡担になったのは運命だと今まで勝手に言ってきたけれど。

大ちゃんが運命だと認めてくれた。

そう思った。

そうだよね。

私が有岡担になれたのも

ここにこれたのも

運命、だったんだ。

コンサートが終わり。

私は抜け殻状態になっていた。

頭の中はWhite Loveで極上の愛を歌ってくれた、大ちゃんの あの 優しい、愛おしい表情でいっぱいだった。

最初で最後の恋を始めようよ Lady

大ちゃんはそう言ってくれた。

・・・待って。

大ちゃんに恋を始めようって誘われた!?

再び、胸の鼓動が早くなる。

しかもそれは”運命”だって言ったよね!?

心はどんどん自分の都合のいいように解釈をしていく。

でも。こんなに素敵なファンサをもらってしまったら、私はもう大ちゃんから離れられない。

また熱愛報道が出てしまった時に自分が耐えられるかはわからない。

わからないけど、もう少し。

もうしばらくは大ちゃんのことを大好きな自分でいたい、そう思った。

・・・そっか。

今日からまた恋を始めればいいんだ。

その瞬間。

私は担降りをやめた。

有岡大貴、第2章の始まりだった。